学校の授業では英語ができるようにならない?

こんにちは講師のたかえもんです。現在、英語が嫌いな中学生が増えています。学習指導要領が改訂され、小学生からの英語学習が必修化されましたが、そのせいで中学1年生になる段階から英語に苦手意識を持つ生徒が増えました。

日本人の英語の能力を底上げするために、英語教育の早期化が実施されていますが、皮肉なことに英語嫌いを増やすという結果に終わりそうです。

さて先日、ある生徒から「学校の授業で英語をやってるけど、英語ができるようになる気がしない。」という話が出ました。軽いグチのような話し方でしたし深刻な相談という様子でもありませんでしたが、話の内容としては多くの人が誤解しているものなので、今回は「学校で何年も英語を勉強しているのに、どうして日本人は英語ができるようにならないのか」というテーマについてお話しします。

聞いたことがある人もいるかもしれませんが、1万時間の法則というものがあります。これは、とあるビジネス書に登場しする有名な経験則で「何かの分野でトッププロになるには、1万時間の練習が必要」というものです。

1万時間と言われても、数字が大きすぎてピンとこないと思いますが、この1万時間という数字は1日に3時間、毎日練習したら10年で到達する数字です。1日に3時間の練習を、毎日欠かさず10年間行うのはとても大変です。確かに、これだけの練習をこなせたら、かなりの技量が身に付きそうです。

さて、日本の学校で実施されている英語の授業は、全部で何時間なのでしょうか?この点がはっきりしないことには、建設的な議論はできません。

公立学校は、学習指導要領という指標が定められています。それをもとに、現在の英語の授業数を確かめてみると「小学校は158時間、中学校は350時間、高校は600時間」と言う時間数だということがわかります。158+350+600=1108なので、学校の英語の授業は合計で1108時間ということになります。

1万時間の法則に照らしてみると、まったく勉強時間が足りていないことになります。つまり、日本人が英語ができるようにならない理由は、勉強不足ということになります。

とは言え、1万時間の法則が本当に信頼できる法則なのかと、批判が寄せられているのも事実です。

1万時間の法則に対する批判というのは、「①練習時間だけが重要であると、話を単純化し過ぎていて練習環境や練習の質などを無視している。②トッププロを目指さないのであれば、1万時間よりももっと短い時間でマスターすることができる。」というものです。

簡単に言えば、「1万時間よりも短い時間で、ある程度の技量を身に付けることができる」というのが批判のポイントです。

こういう事情があるので、1万時間の法則を日本人の英語ができない理由に使うのは控えた方がよさそうです。

では、他に参考になる指標はあるのでしょうか?

あります。アメリカの国務省にある外交官養成局という機関が公表している、アメリカ人(英語が母国語の人)の外交官が日本語をマスターするのにかかる時間、という指標が参考になります。

アメリカの外交官養成局が公表しているデータによれば、アメリカ人(英語が母国語の人)の外交官が日本語をマスターするにはおよそ2200時間かかるとされています。

アメリカ人(英語が母国語の人)の外交官が、フランス語やイタリア語をマスターするのにかかる時間はおよそ600時間とされています。これは、日本語をマスターするにかかる時間のおよそ3.6倍です。

なぜこんなにもマスターするのにかかる時間に違いがあるのかと言うと、言葉の近さに違いがあるからです。

フランス語やイタリア語は、英語に最も近い言語グループに分類されます。フランス語やイタリア語は、使っている文字が英語と同じアルファベットですし、語源が一緒の言葉がいっぱいあります。

それに対して日本語は、アルファベットとはまったく違う文字である平仮名や漢字を使いますし、言葉の順番も大きく異なります。そのため、日本語は英語に最も遠い言語グループに分類されています。

日本語が英語から最も遠い言語グループに属するということは、英語は日本語からかなり遠い言語グループに属する言葉であると言うことができます。このことがアメリカ人(英語が母国語の人)の外交官が日本語をマスターするのに、フランス語やイタリア語のおよそ3.6倍も時間がかかる理由です。

アメリカ人(英語が母国語の人)の外交官というのは、アメリカ人の中でもエリート中のエリートです。そんな人たちでさえ、日本語をマスターするのにおよそ2200時間かかるとされています。非常に優秀な人間が、政府の手厚いサポートを受けて2200時間必要なのです。そうであるならば、一般的な日本人が英語をマスターするのにかかる時間は、2200時間を軽く超えると考えるべきです。

日本の公立学校における英語の授業時間は、小学校から高校まで合わせて1108時間でした。2200時間に届いていません。やはり、学校の授業時間だけで英語ができるようになるには、勉強時間が足りていない、という結論に落ち着きます。

話が長くなってしまったのでまとめます。

「学校で何年も英語を勉強しているのに、どうして日本人は英語ができるようにならないのか」という疑問の答えは、「勉強時間が足りていない」からです。

とてもシンプルな結論ですが、英語ができるようになりたかったらもっと勉強するしかないのです。学校の授業を受け、それにプラスアルファした勉強をすることで初めて「英語ができる」という状態になります。学校の授業を受けるだけでは、「英語ができる」という状態にはならないのです。