アフガニスタン「攻撃」とイラク「戦争」の違い⑤

こんにちは講師のたかえもんです。

前回まで、国際連合憲章で認められた3つの軍事力の行使(「①国際連合の安全保障理事会決議に基づく措置」「②個別国家による自衛権の行使」「③旧敵国に対する措置」)のうち、「①国際連合の安全保障理事会決議に基づく措置」と「②個別国家による自衛権の行使」について説明しました。今回は「③旧敵国に対する措置」について説明します。

国際連合における「旧敵国」とは何なでしょうか?

国際連合は第二次世界大戦終結後に組織されました。その第一の目的は、世界大戦をこれ以上起こさないことにあります。国際連合の前身に国際連盟という組織がありましたが、この組織も国際連合と同じく、世界大戦を起こさないことが目的の組織でした。しかし、国際連盟は世界大戦が起きることを防ぐことができず、第二次世界大戦は勃発してしまいます。

第一次世界大戦の元凶はドイツでしたが、第二次世界大戦もドイツが原因でした。ドイツは第一次世界大戦の反省をせず、恨みを募らせて第二次世界大戦を引き起こしました。

国際連盟の後継組織としてスタートした国際連盟は、こうした事情から世界大戦に敗北した国に疑いの目を向けていました。「戦争に敗北した国は本当に反省するのだろうか、逆恨みをして戦勝国に復讐しようとするのではないか?」このように第二次世界大戦の敗戦国は疑われ、恐れられていました。

そこで戦勝国は、第二次世界大戦で敗北した国を「敵国」として扱う項目を国際連合憲章に盛り込み、怪しい行動を取ったときに迅速に武力行使ができるようにしました。それがいわゆる敵国条項です。

「敵国」に関する規定は国際連合憲章53条や107条に書かれています。

国際連合憲章53条1項

安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極又は地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。

国際連合憲章53条2項

本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。

  1. The Security Council shall, where appropriate, utilize such regional arrangements or agencies for enforcement action under its authority. But no enforcement action shall be taken under regional arrangements or by regional agencies without the authorization of the Security Council, with the exception of measures against any enemy state, as defined in paragraph 2 of this Article, provided for pursuant to Article 107 or in regional arrangements directed against renewal of aggressive policy on the part of any such state, until such time as the Organization may, on request of the Governments concerned, be charged with the responsibility for preventing further

    2. The term enemy state as used in paragraph 1 of this Article applies to any state which during the Second World War has been an enemy of any signatory of the present Charter

国際連合憲章107条

この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。

Nothing in the present Charter shall invalidate or preclude action, in relation to any state which during the Second World War has been an enemy of any signatory to the present Charter, taken or authorized as a result of that war by the Governments having responsibility for such action.

国際連合憲章2条4項で「国際法上の戦争」や「事実上の戦争」が禁止されていますが、それを破った国に対しては安全保障理事会が協議したうえで制裁を行います。安全保障理事会によって制裁が決議されるまでは、北大西洋条約機構(NATO)やヨーロッパ連合(EU)などの地域組織は制裁を行ってはならないことになっています。

ですが国際連合憲章によって「敵国」と認定された国が国際連合憲章2条4項を破って武力行使をした場合、北大西洋条約機構(NATO)やヨーロッパ連合(EU)などの地域組織は、国際連合の安全保障理事会による許可が下りなくても武力による制裁をしてもよいとされています。

これが国際連合憲章53条に書かれている「旧敵国に対する措置」です。第二次世界大戦で敗北した国々は、ある意味で他の国よりも一段下の地位にあるとも言えます。

国際連合憲章が規定する「敵国」とは、「日本・ドイツ・イタリア・ブルガリア・ハンガリー・ルーマニア・フィンランド」を指します。

この「旧敵国に対する措置」ですが、現在は意味を持たない死文と化しているという解釈が有力です。これはどういうことなのか、次回詳しく見ていきます。