「第二言語としての英語」と「外国語としての英語」②

こんにちは講師のたかえもんです。

アメリカの国務省は日本の外務省にあたる機関で外交を担当しています。そのアメリカの国務省には外交官養成局(FSI,Foreign Service Institute)という組織が存在します。

外交官養成局(FSI)とは文字通り、アメリカ人の外交官を育成する組織です。そこでは英語以外の言語を習得する研修が行われています。

外交官養成局(FSI)は「英語話者が高度な日本語を習得するのに最低でも2400時間から2760時間かかる」と発表しています。2400時間から2760時間というのは、日数に換算すると100日から115日です。100日から115日とはおよそ3ヶ月から4ヶ月です。

「意外と短い時間だな」と思う人もいるかもしれませんが、2点ほど注意が必要です。

1点目は、「2400時間から2760時間」という時間は最低限の時間数だという点です。平均した時間数ではありません。

2点目は、「2400時間から2760時間」という時間は一般的な人の習得にかかる時間ではなく、並外れた能力と意欲を持った外交官志望者が習得するのにかかる時間だという点です。

しかも、「2400時間から2760時間」という時間は、普通の学習環境ではなく非常に恵まれた学習環境下での時間です。

外交官養成局(FSI)が行う高度な日本語を身に付ける授業は、5人以下の少人数クラスの授業を毎週25時間行うというものです。そしてこれに加えて、毎日3時間から4時間の自主的な学習を行います。つまり、(授業時間と自習時間を合わせて)1週間におよそ50時間もの時間を英語の学習に費やします。1週間におよそ50時間という時間数は1日7時間を英語の学習に費やすことを意味します。2400時間という時間は、それを1年間続けた数字です。

一般的な英語話者は、高度な日本語を習得するのに「2400時間から2760時間」という時間を間違いなくオーバーするはずです。

この「2400時間から2760時間」という時間は、英語を母国語とする人が高度な日本語を習得するのにかかる時間です。

「逆もまた真なり」とは必ずしも言えませんが、「2400時間から2760時間」という時間は日本語を母国語とする人が高度な英語を身に付けるのにかかる時間の目安になります。

学習指導要領が改訂された話を前回しましたが、改訂された学習指導要領では公立中学・高校の英語の授業時間を「中学生は3年間で350時間、高校生は3年間で約500時間」と規定しています。つまり、中学と高校での英語の授業時間は、合計で850時間ということになります。

この850時間という数字は、アメリカの外交官養成局(FSI)が公表している「2400時間から2760時間」にまったく届いていません。しかも中学高校の授業は30人ほどの集団授業です。5人以下の少人数クラスでの授業を実施している外交官養成局(FSI)の授業とは密度がまったく異なります。

よく「中学高校で6年間英語を学んだのに英語が使えない」という嘆きを耳にします。

ですがこの嘆きは的外れです。中高6年間英語を学んでも英語が使えないのは、単純に学習時間が少ないからです。身も蓋もない話ですが、勉強量が足りていないのです。

中学高校の850時間という授業時間数は、エリート中のエリートであるアメリカの外交官志望者が必要とする勉強時間よりも少ないです。それなのに英語が身につくことを期待するのはあまりにも過大な期待と言わざるを得ません。

ちなみ、改訂される前の学習指導要領では公立学校の英語の授業時間を「中学265時間、高校360時間、合計625時間」と定めていました。言うまでもなく、この時間数では英語をマスターできるはずがありません。

また、改訂された学習指導要領では小学校3年生から英語を学ぶことになり、小学校卒業までに約158時間を英語の授業に費やすことになりました。

中学高校の850時間にこの158時間を合わせると1008時間になります。形式上は1000時間を超えましたが、それでも「2400時間」の半分以下です。