「第二言語としての英語」と「外国語としての英語」①
中学生の学習指導要領が2021年度から改訂されました。この改訂により、中学校で習う科目はどれも量が増えました。特に、英語は学習量が1番増えてしまい大変なことになっています。
2021年度の改訂前は、中学校3年間で習う単語の数は1200語程度でした。ところが2021年度の改訂により、単語の数が2200語から2500語にまで増えました。約2倍の増加です。
単語の数が異様に増えましたが、さらに中学校で扱う文法の量も増えました。これまでは高校生で習っていた仮定法過去や現在完了進行形、原型不定詞といった内容が中学で扱われることになったのです。
これだけ単語と文法の量が増えたのなら、英語の授業時間数も増やすべきです。しかし、授業時間数は学習指導要領が改訂される前の、1週間で4時間のまま変更されませんでした。そのため、中学校の授業はついて行けない生徒を振り落とすような、容赦のない進み方をする授業になっています。
この状況に中学生だけでなく、中学校の先生も悲鳴を上げています。
和歌山県で実施された、中学校英語教師へのアンケート調査では、「限られた授業時間の中ではじっくり練習する時間がとれず、英語嫌いな生徒や脱落してしまう生徒が増えている」、「急いで文法事項を進めないといけないので、お気楽さが消えている。小さなミニゲームなど、英語を楽しいと感じられるようなことに割く時間が無い」「できる子には良いかもしれないが、早い段階でつまづいている子は早くに諦めてしまい、格差が増大している」といった声が寄せられています。
学習量が増えて1番大変なのは中学生ですが、とりわけ中学1年生が悲惨なことになっています。
中学1年生は中学校3年間の英語の入り口です。そのため、ここで英語が嫌いになると取り返しがつかなくなります。
英語という科目は、数学と同じで積み重ねの科目です。1年生の内容が基盤となり、その上に2年生・3年生さらには高校生の内容が積み上げられます。途中で分からなくなると、それ以上進めなくなってしまう怖い科目です。
これが理科や社会ですと、単元が変わると内容もリセットされるので、まったく付いていけないということは起こりません。「化学はよく分からないけど、植物はよく分かる」とか「歴史は苦手だけど地理は好き」といったことはよく起こります。
ですが英語は付いていけなくなったら、それ以降は本当に何も分からなくなります。だから中学1年生は本格的な英語の入り口として脱落しないよう、基礎の反復と学習スタイルの定着を図るべき時期です。過剰な学習量で意欲を押し潰してしまう真似は絶対に避けないといけません。
それなのに現在の学習指導要領は、最初から一気に膨大な単語と文法の習得を要求してきます。
たとえば、1年生の教科書のユニット1では、いきなり「be動詞の疑問文・否定文」と「一般動詞の疑問文・否定文」が登場します。
これまででしたら、ユニット1で「be動詞の疑問文・否定文」を扱い、次のユニット2で「一般動詞の疑問文・否定文」を扱うというようにスモールステップをしっかり踏んでいました。それが最初からスピード全開で、生徒を振り落とすような構成になっています。
そんな無茶苦茶な教科書ですが、無茶苦茶なのには理由があります。2020年度から小学校5年生・6年生で英語の授業が必修化しました。そこで「be動詞の疑問文・否定文」と「一般動詞の疑問文・否定文」は小学生で習うことになりました。小学生のうちにbe動詞や一般動詞は習うのだから、中学1年生の教科書はそこまで丁寧に触れないという構成に変わったのです。
これが本当に小学校5年生・6年生でしっかり文法を習うのであれば問題はありません。しかし、実際には小学校5年生・6年生の授業では文法をきっちり習ったりしません。
現在の小学校5年生・6年生の英語の授業は、決められたフレーズを繰り返し発音したり、ミニゲームを楽しく行うといったレクリエーション的なことが中心です。せいぜいABCやローマ字を習うくらいです。そんな状況なのに、中学1年生は最初からスモールステップを踏んでくれない授業を受けることになります。これでは公立学校の授業しか受けない生徒はついていけなくなって当然です。
英語を小学生から習うように学習指導要領が変わりましたが、小学校と中学校の接続が上手くいっていないのが現状です。
「小学生の気分のまま何も準備をせずに中学生になると大変な思いをする」、そういった傾向は以前からありましたが英語はそれがより強まっています。