英単語のスペルと発音の不一致②

こんにちは講師のたかえもんです。前回、英語の発音とスペルが一致していないのは、「大母音推移(だいぼいんすいい the Great Vowel Shift)」と「活版印刷技術の発明」とあるとお伝えしました。その2つのうち、「大母音推移」についてお伝えしていきます。

現在の英語は発音とスペルが一致していません。しかし、今から600年ほど前まで英語の発音とスペルは一致していました。

たとえば「憎む」を意味する単語にhateというものがあります。この単語の現在の発音は「ヘイト」ですが、600年ほど前までは「ハーテ」とローマ字読みそのままの発音をしていました。ほかにも「name」は「ナーメ」、「time」は「ティーメ」、「see」は「セー」と発音とスペルは一致していました。

ところが今から600年前から300年前にかけて、母音の発音がガラリと変わってしまいます。

「アー」の発音が「エイ」に、「エー」の発音が「イー」にというように母音の発音が変化してしまったのです。この現象を「大母音推移(だいぼいんすいい the Great Vowel Shift)」と言います。

なぜこんな発音の変化が起きたのか、はっきりとした原因は分かっていませんが「口を動かすのが面倒になったから」というのが有力です。

たとえば「エー」の発音ですが、「エー」と発音するためには口をはっきり開ける必要があります。試しに「エー」と大きく発音してみてください。口を大きく開けますね。

ところが口を大きく開けるのは疲れます。口の開きを小さくしてだらしなくいいかげんに「エー」と発音してみてください。「イー」の発音に近くなります。

このように今から600年前から300年前にかけて、疲れる発音から疲れない発音へとだんだん変化していったようなのです。

「そんなことって本当にあるの?」と思うかもしれませんが、実は日本語でも同じような発音の変化があったと考えられています。

今から1000年以上前の平安時代の発音は現在の発音と違うと言われています。

たとえば「は ひ ふ へ ほ」ですが、平安時代は「ふぁ ふぃ ふ ふぇ ふぉ」と発音していたようです。他にも「ち」は「てぃ」、「つ」は「とぅ」、「が ぎ ぐ げ ご」は「んが んぎ んぐ んげ んご」という発音だったと考えられます。

平安時代に書かれた『枕草子』という作品があります。その第一段に

闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。

という一節があります。これを現代の発音で読むと、下のようになります。

やみもなお、ほたるのおおくとびちがいたる。また、ただひとつふたつなど、ほのかにうちひかりてゆくもおかし。

闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。

この一節を平安時代の発音で読むと、下のようになります。

やみもなフォ、フォたるのおフォくとンビティンガフィたるまた、タンダフィトゥふたトゥンドフォのかにうティフィかりてゆくもウオかし。

闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。

かなり今と違った発音です。実際に口ずさんで見てください。口の筋肉かなり使うので疲れます。

このように言葉の発音は、口の筋肉を使う疲れる発音からそこまで口の筋肉を使わない疲れない発音に変化する傾向があるようです。

こうした発音の変化は古今東西共通して起きる現象なのですが、英語の場合「大母音推移」という発音の変化と同時に「活版印刷技術の発明」が重なってしまいました。このことが英語の発音とスペルが一致しない元凶となります。