ロシアのウクライナ侵攻について⑬ロシアの愛国教育

こんにちは講師のたかえもんです。プーチン政権になり、ロシアでは愛国教育が盛んになりました。

個人的にもそうした傾向を強く感じたこともあります。それはあるロシア映画を見たときのことです。

その映画とは2019年に公開されたT-34 レジェンド・オブ・ウォー」(原題は「T-34」)です。

実に安っぽい副題が付けられた映画で、そうしたマニア向けのアクション映画です。

タイトルに出てくる T-34とは第二次世界大戦の時にソ連で作られた戦車で、ソ連の勝利の象徴として強く持ち上げられている戦車です。

第二次世界大戦中最も多く作られた「救国の戦車」T-34。それのドンパチをメインに据えたのが「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」で、ロシア本国での観客動員数800万人以上を記録したメガヒット作です。

この映画は前身となる映画が存在します。それは「鬼戦車T-34」(原題「ひばり」)です。

これまたいかにもな邦題の映画ですが、こちらは1965年に制作されたソ連映画で全編白黒です。

「鬼戦車T-34」の2019年版として「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」は制作されたと公開当初はその筋で評判になりました。

「鬼戦車 T-34」を見たことがあったため、それの現代版である「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」はどんなものだろうと思い、見に行きました。

まあがっかりしたことを今でも覚えています。

ソ連映画の「鬼戦車 T-34」とロシア映画の「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」は基本的なストーリーは同じです。

ドイツ軍の捕虜になったソ連兵士が主人公で、ドイツに鹵獲されていたT-34を捕虜の仲間と一緒に盗み出して収容所から脱出するという筋書きです。

「鬼戦車 T-34」も「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」も脱出過程でコミカルな失敗を繰り返すというエンターテインメントに振れた「脱出もの」です。

ほぼ同じストーリーラインをなぞる2作品ですが、物語の後半から最後にかけての展開が異なります。

両作品とも後半には追っ手のドイツ軍に追いつかれ、ピンチを迎えます。

「鬼戦車T-34」の方は、仲間が一人またひとりと倒れ、最後には主人公も死んでしまう全滅エンドとなります。

前半はかなりコミカルな内容だったのに、現実の非情さがいきなりぶち込まれびっくりします。2700万人も死んでる戦争なんだからそんなうまい話はないよなと納得させられますが、余韻がすごい。

最初の方は軽い内容だったのに、最後には戦争の喪失感をしっかり描きます。娯楽作品のはずなのに、ソ連映画の得意とする哀切をしっかりと感じさせる印象に残る作品です。

それに対して「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」は、CGを駆使してド派手な戦車戦が繰り広げられます。これ自体は別に良いのです。現代の技術を使って「鬼戦車T-34」では描けなかったバトルを描くというのは娯楽として正しい。

ですが、個人的にしらけたのは仲間や主人公が誰も死なないエンディングを迎えたことです。死んだと思った仲間が生きていて最後に主人公と合流する。主人公は脱出の途中でかわいいヒロインをゲットする。仲間とヒロイン、そして主人公が無事のまま追っ手のドイツ軍を壊滅させ自軍の陣地に揚々と生還する英雄的結末。

本当につまらない自国賛美の愛国万歳映画です。「鬼戦車T-34」の哀愁に満ちた結末を期待していた身からすると唖然とする出来の悪さでした。

「鬼戦車T-34」にも自国賛美の愛国的な描写は存在します。例えば最後に残った主人公が死亡した直後の、映画の最後のシーンです。

主人公の戦死後、突然戦没者の記念碑が写され「祖国は英雄たちを忘れない」というテロップが出されておしまいとなります。

この「祖国は英雄たちを忘れない」というテロップの何と白々しいこと。見ている人に「政府からの指示で無理矢理入れさせられたんだな」と思わせ、ソ連という国家の硬直した強権体制に思いをはせさせる秀逸な最後です。

それに対して「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」の何も残らないことといったらありません。ただ自国の過去を美化するだけの薄っぺらい愛国プロパガンダ。こんなものがロシア本国で大ヒットしたなんて、ロシアはどうなってるんだろうと首をかしげたものです。

多くの人が見たからと言って、作品としての評価が良いとは限りません。ロシアで800万人以上が見たのは確かなのでしょうが、だからといってその内容に好意を寄せているとは限りません。ですが、内容に賛同しているからこそこの作品がヒットしているとしたら、プーチンの愛国教育は成功していることになる。当時そう感じたものです。

うれしくないことに、この所感は当たっていたようです。