ロシアのウクライナ侵攻について⑫
こんにちは講師のたかえもんです。
ロシア連邦は1億4千万人の人口を抱え、多様な民族・言語・宗教が存在しています。こうした背景の違う1億4千万人がどうしてロシア連邦という1つの国で1つにまとまらないとはいけないのか、ロシア連邦にとって非常に厄介な問題です。
国家統合の理念を一歩でも間違えると、ロシア連邦内の民族の独立分離運動が盛んになり、世界最大の領域を持った国歌は解体されてしまいます。
プーチンの前任のエリツィンはこの問題を解決できず、最後まで棚上げにしました。
エリツィンが退任してプーチンが大統領に就くと、この問題の解決を第二次世界大戦の勝利に求めます。
軍人と民間人合わせて2700万人が死亡した第二次世界大戦は、ソ連国民にとって大変な試練でした。ソ連はこの戦争で頭1つ抜けた被害を受けましたが、それと引き換えにナチスドイツを倒すのに1番の貢献をしました。ソ連はナチスの主力を受け止め続け、首都ベルリンを陥落させ、ヨーロッパの戦争を終わらせたのです。ナチスを倒したのは紛れもないソ連の功績です。
こうした功績をプーチンは全人類規模的な貢献と位置づけ、ロシア連邦にいる様々な民族の仲間意識を育む材料にしました。
「人類の敵であるナチスを一緒に倒した仲間」という意識をロシア連邦のアイデンティティに据えたのです。
こうした事情もあり、プーチンは愛国教育に力を注ぎました。
たとえばプーチンが大統領に就任してから5月9日の対独戦勝記念パレードを復活させました。
5月9日はナチスドイツが降伏文書にサインをし、正式にヨーロッパでの戦争が終結した日です。ソ連時代はこの日を国民的な祝日として大々的に祝っていました。
ソ連崩壊後のロシア連邦は混乱していて5月9日を祝うどころではなかったのですが、プーチンは
この日に行われていた軍事パレードを復活させました。
様々な兵器が一糸乱れぬ兵士とともに行進するさまはインパクトが強く、原始的な興奮を得られます。
冷戦の敗北とともに起きたソ連崩壊と、その後の混乱に見舞われたロシアの人々はすっかり自信をなくしていました。
そうした状況で復活した対独戦勝記念パレードはロシア国民に過去の偉大な功績を思い起こさせ、現在のロシアの力強さを演出してくれるものでした。
プーチンのもくろみ通り、愛国感情が刺激されプーチンの支持率も盤石なものになりました。
また2015年に愛国者公園という巨大テーマパークをオープンさせることもしました。あまりにも直球なネーミングに笑ってしまいますが、この愛国者公園はロシア国防省が運営するテーマパークで、広さは東京ディズニーランドの100倍もの広さがあります。
欧米メディアでは「ミリタリー・ディズニーランド」とこれまた直球な呼ばれ方をする愛国者公園ですが、中は戦車や銃、軍用シミュレーターの実物が展示してあったり、サバイバルゲームができる野外活動エリアがあったりと様々な楽しみ方ができるような施設です。
大人も楽しめるようですが、小さい子供を遊ばせてプーチンが望むような愛国感情を植えつけることを大きな目標にしています。
これ以外にも、ソ連時代の機密文書の公開を止めるということをしました。
ソ連最後の書記長ゴルバチョフはそれまでの機密文書の公開を行うなど、ソ連の閉鎖的な体質を変える改革を行いました。ソ連が崩壊した後のエリツィン時代もこの情報公開(グラスノスチ)は続けられ、この時に公開された文書から第二次世界大戦の被害の実態やカチンの森事件の真相といったソ連に不利な情報がどんどん明らかになりました。
ところがプーチン時代になるとこうした機密情報は公開されなくなります。これはプーチンの推し進める愛国教育にとって都合の悪い事実が多く、それを隠すためだと思われます。
愛国教育とそれに絡んだ情報統制が、ウクライナ侵攻に対するロシア国民の支持率の高さにつながっているのです。