ロシアのウクライナ侵攻について⑪
こんにちは講師のたかえもんです。ロシアがウクライナに侵攻してから3ヶ月が経ちました。いっこうに停戦の兆しが見えず、いったい今後どうなるのか予断を許さない状況が続いています。
ロシア国内ではプーチン政権の情報統制がうまくいっているのか、ウクライナ侵攻に対する支持が80%以上という報道もされています。このデータが本当なのか、あるいは本心を表に出せないでいるのかははっきりとしませんが、ロシア国内の人々が停戦に向けて立ち上がるということは今の段階では望みが薄そうです。
仮にロシアの国民の大半がウクライナ侵攻を支持しているとしたら、プーチンの愛国教育が成功している証しとなります。
ロシア連邦、現在のロシアの誕生は1991年です。ロシアというと長い歴史があるような気がしますが、現在のロシアは30年の歴史しかありません。かなり新しい国家なのです。
新しい国家が直面する問題というのはいろいろありますが、ロシア連邦にとって大きな問題になったのは国家のアイデンティティをどう規定するのかというものでした。
どうしてロシア連邦という国に人々は所属しなくてはいけないのか。どうしてロシア連邦は、その領域の国家でなければならないのか。このようなロシア連邦がロシア連邦であるための根拠が大きな問題になったのです。
これがイギリスや日本のように歴史が長い国ですと歴史の長さが重みとなって、そもそも問題として浮上することが起きにくくなります。
またアメリカや中華人民共和国、あるいはソ連のように革命でもって独立を獲得した国であれば、独立の理念がそのまま国家のアイデンティティになります。
ところがロシア連邦(やウクライナ)はソ連が崩壊したことでなし崩しに成立した国家です。
バルト3国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)のようにソ連時代から独立を願っていた国なら、、悲願の成就ということでアイデンティティの問題は小さなものとなります。
ところがソ連の中核をになっていたロシア連邦はソ連とロシアをほぼイコールで捉えていたたため、この問題に苦しむことになります。
ロシア連邦は人口の大半がロシア人ですが(78%)、タタール人やウクライナ人、バシキール人、チュバシ人など様々な民族がいる多民族国家です。
宗教もロシア正教を信じるひとが最も多いのですが(41%)、カトリックやプロテスタント、イスラーム教、仏教にユダヤ教と非常にバラエティに富んでいます。さらにソ連時代は宗教の否定が国是だったため、無宗教のひとが13%もいます。
これだけ多様な人々を束ねる理念はいったいどういうものであるべきなのか、成立したばかりにロシア連邦は苦戦します。
最大多数であるロシア人であることを国家のアイデンティティに据えることが簡単な解決策なように思えます。しかしそうしてしまうとロシア人ではない人々(全人口の22%)の離反や独立を招くことになります。宗教を国家のアイデンティティに据えても同じ袋小路に陥ります。
こうした難問に直面したため、ロシア連邦は成立当初には国歌がありませんでした。
国歌とはその国の理念を謳い上げるものです。誕生したばかりのロシア連邦にはその謳い上げるべき理念がなかったため国歌を決められなかったのです。
暫定的に帝政ロシア時代の作曲家グリンカの「愛国歌」が国歌として演奏されるようになりましたが、歌詞はないままでした。
これが変わるのがプーチンが第2代目大統領に就任した2000年です。2000年にプーチンはソ連時代の国歌をロシア連邦の国歌として採用しました。歌詞はソ連時代とは別なものにしましたが、ソ連時代のものを復活させたのです。
これは現在のウクライナ侵攻にもつながるような象徴的な出来事です。
プーチンは新生ロシアであるロシア連邦のアイデンティティをソ連時代に追い求めたのです。
多民族国家であるロシア連邦を束ねる理念としてプーチンが持ち出したのが、ソ連時代に達成した「ナチスへの勝利」です。