ロシアのウクライナ問題について⑦
こんにちは講師のたかえもんです。ロシアがウクライナに侵攻してから6週間が経ちました。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)からロシア軍は撤退しましたが、軍事衝突はまだ終わりが見えません。ロシア軍が撤退した場所で一般人の大量虐殺が行われていた可能性が高いという報道もされています。もしこれが本当なら、レーニンやスターリンの時代と何一つ変わっていません。今もロシア軍の制圧下にあるウクライナの人々のことを考えると暗い気持ちになります。
ロシア軍のウクライナ侵攻はほとんどの研究者にとっても予想のできないことでした。侵攻が成功してもロシアにとってプラスになることは無い自殺行為だからです。理性的に考えてみればありえない決断です。
だからこそこんな暴挙が本当に実行されるなど予想できませんでした。
まったく合理的な判断では無いため、「プーチンの頭がおかしくなった」という説が1番説得力を持つ始末です。
プーチンが今回のウクライナ侵攻を決断した要因は1つではなく、いくつもの要因が複合しているはずです。1つの要因だけが物事の原因になるほど世の中は単純ではありません。
今回は「抑止」という概念がロシアでは他の国と違うことが、ウクライナ侵攻を決断した要因の1つではないかというお話をします。
日本語の「抑止」は英語でdeterrence(ディテレンス)と言います。この言葉は「(相手を)思いとどまらせること」を意味します。全体的に非接触的なイメージを与える言葉です。
ロシア語の「抑止」にあたる言葉はсдерживание(スジェルジヴァニエ)と言います。この言葉は「(相手に)適切なダメージを与えて行動を変えさせること」という意味を持ち、「抑え込み」に近い言葉です。こちらは接触的なイメージを与える言葉です。
一般に「抑止(deterrence ディテレンス)」というのは、実際にダメージを与える前に相手を思いとどまらせることです。ダメージを実際に与えてしまっては「抑止(deterrence ディテレンス)」ではなく「実力行使」になってしまいます。
ロシアの「抑止(сдерживание スジェルジヴァニエ)」も、相手を思いとどまらせることを目的としているのは「抑止(deterrence ディテレンス)」と共通しています。ですがそのためにダメージを実際に与えることを手段として認めています。そこが「抑止(deterrence ディテレンス)」と違うところです。
こうした概念の微妙な違いから、ロシアは「抑止」のつもりで相手にダメージを与えたのに、ダメージを与えられた側はそれを「抑止」ではなく「実力行使」だと認識してしまうずれが起きてしまいやすくなります。
ダメージを与えるという行為は、それが軽いものであっても一線を越えた行為です。やってはいけない重大な反国際社会的な行為なのです。ですがロシアにとってそれは一線を越えたという意識がない可能性があります。
このずれが、ウクライナ侵攻をプーチンに決断させた要因の1つであると考えられます。
「ロシアの勢力圏である東ヨーロッパに対して西側の国は口出しするな。ウクライナ程度の小国を制圧してみせることは、たびたびロシアの勢力圏に口出ししてくる西側に対して効果的な抑止になるはずだ」。こういった認識がプーチンの奥底にあったのかもしれません。
2014年のクリミア併合はこうした意図があったとされます。
西側との認識のずれがあることをプーチンが理解していないとするなら、今回の侵攻があまりに杜撰なのも分かりやすくなります。
繰り返しになりますがロシア語の「抑止(сдерживание スジェルジヴァニエ)」は、「(相手に)適切なダメージを与えて行動を変えさせること」です。ウクライナに侵攻して制圧することが西側に対する「適切なダメージ」程度に考えていたとしたら、軽率で非合理的なプーチンの決断にも一定の理解を寄せられるようになります。
ですがこれはロシアの一方的な認識です。勝手にウクライナに侵攻し、一般人を虐殺して良い理由になるはずがありません。一刻も早い国際平和的な解決が望まれます。