テスト効果⑥
こんにちは講師のたかえもんです。
前回はロンドン大学のデボラ・ポッツ博士とデヴィッド・シャンクス博士が行った実験を紹介しました。
その実験とは、事前に習っていない内容であってもテストは学習に効果があるというものでした。
習ったことのない内容がテストされるのですから当てずっぽうで答えるしかありません。
ですが、そんなテストを本番のテストより前に行っておくと、本番のテストの成績が良いという実験結果が得られました。なかなか信じられないような結果です。
この実験に似た実験が、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者エリザベス・ビョーク教授によって行われました。
エリザベス・ビョーク教授は自身の心理学の授業で、講義を始める前にこれから行う講義の内容についての事前テストを行いました。
その事前テストの正答率はとても低いものでした。まだ講義で扱われていない内容なのでこの結果は当然です。
エリザベス・ビョーク教授は事前テストを実施したあとに講義を行い、講義終了後にテストをしました。講義後のテストは、事前テストと内容が重なっているものもあればそうでないものも含まれています。
講義後に実施されたテストでは、事前テストをした項目の方が事前テストをしていない項目よりも正答率が高いという結果が得られました。
この実験結果は、デボラ・ポッツ博士とデヴィッド・シャンクス博士が行った実験と同様に、習っていない内容でもテストをしてみると学習に効果があるという可能性を示しています。
つまり、テストをすることは事前の学習をしたかどうかにかかわらず、学習効果が見込まれるのです。
ですが、デボラ・ポッツ博士たちやエリザベス・ビョーク教授が行った事前テストには気を付けないといけないことがあります。
それは、学習への意欲と自信の問題です。
何も教わらずに事前テストを受けた被験者たちは、事前テスト後に自信をなくして辛い思いをします。
できるはずがないテストをやらされるのですから、自然な反応です。
事前テストは確かに効果が見込めるのかもしれませんが、やる気をそいでしまう可能性があります。
「学習性無力感(learned helplessness)」を誘発してしまう危険性すらあります。
「学習性無力感」とは、失敗を重ねすぎると、頑張ろうとする気持ちが起こらなくなる現象を指します。
これは学校の勉強に非常でよく見られる現象です。
例えば、英語嫌いや数学嫌いがこれに当てはまります。
英語や数学が嫌いな生徒は多いです。ですが、最初から英語や数学が嫌いな生徒はほとんどいません。学校の授業やテストで成果をあげられないことが積み重なって、嫌いになることが多いです。
そうなると「大人になってから英語(数学)なんか使わないからできなくていい!」と思うようになって、勉強を避けるようになります。
このように、成功体験が得られないことが続いて「どうせやっても無駄だからやらない」となってしまうのが「学習性無力感」です。
事前テストは失敗体験を積み重ねるため、「学習性無力感」が生まれかねません。これが事前テストで気を付けないといけないことです。
事前テストで目先の学習効果を得られたとしても、長期的には意欲や自信の低下につながってしまう恐れがあるのです。