検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?

こんにちは講師のたかえもんです。

夏休みの課題で苦労するものの1つに読書感想文があると思います。その参考になるわけではありませんが、最近自分が読んだオススメの本を紹介したいと思います。

小野寺拓也・田野大輔(2023) 『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』岩波ブックレット

この本はインターネット上で取り沙汰されることの多い、ナチスがしたとされている「良いこと」が本当だったのかを検証する本です。

ナチスは第二次世界大戦を引き起こし、各地でユダヤ人やスラブ人などの虐殺を行いました。ドイツ史上最大の汚点と言えます。

ナチスはハリウッド映画で敵役として登場することも多く、誰もが1度はも耳にしたことがあるはずです。

かっこいい制服に身を包んだ金髪碧眼の冷徹な軍人(本当は軍人ではないですが)、という完成された悪役像が人気です。

そうした反道徳的なかっこよさに惹かれ、ナチスの功績(とされるもの)を持ち上げる言説がいまだにSNSなどで話題になったりしています。

「世界恐慌でどん底だったドイツ経済を立て直した」「国民に自動車を格安で提供した」「労働者に数週間のクルーズ旅行を用意した」「結婚の資金援助制度を制定した」など、こういったナチスをプラスに評価する言葉は調べればすぐ出てきます。

これらが歴史学的にはすでに否定されたものであることを『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』は伝えてくれます。

これまでナチスについて本格的に掘り下げようとしたら、300ページをこえる本を何冊も読まないといけませんでした。ふつうはそんなに同じジャンルの本を何冊も読めません。

「こうした状況がナチスに対する好意的評価を生み出す土壌になっている」と危機感を覚えたことが著者の本書出版の動機だそうです。

専門的な知識を持っている研究者の仕事は、同じ研究分野の研究者に向けた論文を書くことです。一般人向けの情報発信は2次的な仕事で大切な仕事とは見られていません。この傾向は優れた研究者であればあるほど強まります。

研究を深めることこそが研究者の本分であり、一般人向けに情報発信するのは研究の最前線に立つ人間のする仕事ではない。こう考える研究者は多いのです。

そのため、専門的な知識を持たない一般人が怪しげな情報に踊らされているのに、専門家はそれを正そうとはしない。こういった事態が発生してしまいます。

インターネットの普及に伴い、研究者でも一般の人の考えに触れる機会が増えました。様々なSNSに触れることで、研究者でも一般の人との知識のズレに簡単に気づけるようになってきたのです。

しかし、それでも多くの研究者は一般の人が接する嘘や誤りを訂正しようとしません。それで良いのか?というのがこの本を出版するにいたった動機であると筆者は述べています。

これは大変重要な考えです。多くの人に還元されない知識はただの自己満足なのですから。

この本は120ページほどの分量で値段も1000円以下と手頃です。

とは言え、短いページ数ながら内容はぎっちり詰まっているので腰をすえて読む必要があります。「世界恐慌でどん底だったドイツ経済を立て直した」「国民に自動車を格安で提供した」「労働者に数週間のクルーズ旅行を用意した」「結婚の資金援助制度を制定した」といったよく言われる内容がどう誤りなのか、かなり根気強く読み進めないとたどり着けません。ですが、ナチスがどうして否定され続けているのかをコンパクトに知ることができるのでオススメです。

ナチスという話題は大変にセンシティブです。あまりよく知らないのに触れようとすると大火傷を負います。少しでもナチスに興味がある人はまずこの本から触れるのが安全です