睡眠について②睡眠負債
こんにちは講師のたかえもんです。前回、睡眠不足が集中力に大きな影響をあたえることをお話ししました。今回は睡眠不足が借金のようにたまっていく睡眠負債についてお話しします。
睡眠不足がたまっていくことについてこんな実験があります。
目の前にモニターと発光ダイオードを置きます。これらはランダムに光ります。実験を受ける人はモニターが光ったらAのボタンを押し、発光ダイオードが光ったらBのボタンを押します。このようにして、モニターと発光ダイオードのどちらが光ったか、反応の正確性と反応速度について計測します。
この実験では次の4つのグループを作りました。
①72時間寝ないグループ
②毎日4時間だけ寝るグループ
③毎日6時間だけ寝るグループ
④毎日8時間寝るグループ
「①72時間寝ないグループ」は1日につき10分間の計測を3日間、②③④のグループは1日につき10分間の計測を15日間行いました。
1番ミスが多かったのが「①72時間寝ないグループ」で、1番ミスが少なかったのが「④毎日8時間寝るグループ」でした。「④毎日8時間寝るグループ」は15日間の計測のなかで、ミスが増えることは1日もありませんでした。それに対して、「①72時間寝ないグループ」は最初の24時間を起きている段階で④のグループの4倍のミスをしました。
この実験で注目すべき結果が出たのが、「②毎日4時間だけ寝るグループ」と「③毎日6時間だけ寝るグループ」でした。
「②毎日4時間だけ寝るグループ」は、この実験の開始から6日目に「①72時間寝ないグループ」が24時間起きていたときと同じ程度の集中力の低下が見られました。毎日4時間の睡眠を6日間続けるというのは、毎日8時間寝ているグループにくらべて合計24時間睡眠が足りていない計算になります。
また、「②毎日4時間だけ寝るグループ」は、11日目になると「①72時間寝ないグループ」が48時間起きていたときと同じレベルにまで集中力が低下しました。毎日4時間の睡眠を11日間続けるというのは、毎日8時間寝ているグループにくらべて合計44時間睡眠が足りていない計算になります。
さらに、「③毎日6時間だけ寝るグループ」は、10日目で「①72時間寝ないグループ」が24時間起きていたときと同じ集中力の低下が計測されました。毎日6時間の睡眠を10日間続けるというのは、毎日8時間寝ているグループにくらべて合計20時間睡眠が足りていない計算になります。
こうした実験結果から、睡眠不足による集中力低下は借金のように積み重なっていくということが分かりました。これが睡眠負債です。
睡眠負債の怖いところは自覚が無いところです。
24時間ずっと寝ないでいると、集中力の低下や眠気の増加を実感できます。けれども、睡眠負債は少しずつ集中力が低下していくので、自分が本来の状態からどれくらい能力が下がっているのか自覚できません。自覚できないと、その状態を改善しようという行動を起こせません。
こうして、本当は徹夜している状態と同じくらい集中力が低下しているのに、その状態が自分の「ふつう」だという錯覚を起こしてしまいます。この状態ではいくら勉強をがんばっても、なかなか結果にはつながりません。「徹夜してがんばって勉強しているのですが、ぜんぜん勉強ができるようになりません」と言っているようなものです。
しかもやっかいなことに、自覚がないので他の人から寝不足の指摘を受けてもなかなか受け入れられません。自覚が無いのだから仕方のないことですが、この自覚の無さはたいへん大きな障害です。
小学生から高校生まで、だいたい9時間くらいが必要とされる睡眠時間です。ショートスリーパーという6時間程度の睡眠でも大丈夫という人もいますが、ショートスリーパーであるかどうかは遺伝で決まっているうえに確率は2万5千人に1人という低確率です。まずありえません。
睡眠時間が9時間を切っている場合、睡眠負債を抱えている疑いが強くなります。
自分が睡眠負債を抱えているかをテストする方法があります。
目覚ましのアラームをかけず、真っ暗で雑音の入らない部屋で思いっきり寝てみることです。この状況で目を覚ました時に、いつもの起床時間を2時間以上オーバーしたら睡眠負債を抱えていると言えます。
いずれにせよ、しっかり勉強ができるようになりたいのなら9時間の睡眠は不可欠です。