私の読書遍歴④〜高校時代その2〜

奇しくも筒井康隆&安部公房の両氏ともに推していたガルシア=マルケスというラテン・アメリカの作家は、これまたすごい!特に、ノーベル文学賞も受賞している「百年の孤独」は、世界的に有名な大傑作長編なのにめっちゃ読みやすいので、超おすすめです。もしご存知なけれなぜひ手に取ってください。最近、ようやく文庫化もされたようですが、Amazonのレビューで「字が小さい」と書いてありました。なので個人的には少々値は張りますが単行本の方がいいと思います。

この作品は「マジック・リアリズム」とか「魔術的リアリズム」と呼ばれる手法が使われていて、これは超自然的な出来事が日常の場面に自然な感じに溶け込んでいる、という語り口が特徴です。なので、空飛ぶ絨毯とか空に上っていく少女とか、死んだはずなのにいつまでも家の中や外でふらふらしているお父さんとか、普通あり得ないような出来事を文章のうまさによっていつの間にか「まあ、そういうこともあるよねえ」と受け入れてしまう、という不思議体験ができます。

そして、「百年の孤独」以上にぶったまげるのが「族長の秋」という作品です。これは、はっきり言って読みやすくはありません。一般的な読書人には「わけが分からん」と言われそうです。でも、私は大好きです。

語り手が不特定の複数人称なので、誰が喋ってるのかもよく分からないし、時間に関しても行ったり来たりでぐちゃぐちゃだし、小説の概念が覆るほどのイメージの応酬で、読んでると頭がクラクラしてきます。南米の孤独な独裁者の大統領が主人公なのですが、冒頭でいきなりその主人公は死んでいて、大統領府には牛が出入りしてて、いろんな物がぶっ壊れてて、みたいな(笑)そして、「百年の孤独」以上に非現実的で残酷な描写が続きます。

読みこなすには、結構な想像力が必要です。海を絨毯のようにぐるぐる巻きにする、と言った意味不明な描写も出てくるので、真面目な人は「ありえない!」と言って怒り出すかもしれません。残酷面に関しては、酷すぎてここには書けません。ハマると中毒になるような、他の小説ではまず味わえないような体験ができる作品です。

ガルシア=マルケスには「予告された殺人の記録」という、今度は一転してリアリズムの手法で書かれた中編小説もあり、これも傑作です。何しろ、誰が殺されるかが最初からわかっている、完全にネタバレ推理小説仕立てなのに、ものすごい緊迫した雰囲気で話が進むので、読んでいると異様な高揚感に包まれます。これは映画化もされていて、大学生になってから映画館で見た記憶があります。映画も原作に忠実で、満足度の高い作品でした。

ラテン・アメリカ文学には他にも面白い作品がたくさんあるのですが、バルガス=リョサやフリオ=コルタサル、ホルヘ=ルイス=ボルヘスなどの作品が特に好きです。彼らは世界的なラテン・アメリカ文学ブームを巻き起こした作家たちなのですが、南米という辺境の地に暮らしつつもヨーロッパに渡って最先端の実験的手法を学んで取り入れているので、ストーリー性がありつつも先鋭的な作品ばかりでとても刺激に満ちています。

バルガス=リョサはどれも面白いのですが「都会と犬ども(街と犬たち)」と「世界終末戦争」が特にお気に入りです。デビュー作である「都会と犬ども」は作家自身が子どもの時に学んでいた全寮制軍人学校が舞台で、ここで起こるいろんな事件が様々なテクニックを駆使して描かれています。

「世界終末戦争」はこれまたやたらと分厚い長編小説ですが、とっても読みやすくて面白いです。ある宗教の指導者がリーダーとなって国家と戦争する話なのですが、登場人物が皆いいキャラしてて、時折笑ったり、共感したり、感動したりできます。まさに人間ドラマ!

フリオ=コルタサルは短編の「続いている公園」が短いけど「え?なにそれ?不思議!」という経験ができのでおすすめです。だまし絵のような小説です。「南部高速道路」という短編もめっちゃ面白いです。何しろ、何日も何日も渋滞が続くという「そんなん絶対ありえないだろー」的なお話で、渋滞中に他の運転手たちと心の交流ができて助け合ったり、妊婦が病院に間に合わなくて渋滞中に生まれちゃったり、なんかむちゃくちゃな事が大真面目に書かれていて最高です。

ホルヘ=ルイス=ボルヘスはこの中ではもっとも知的で難解な作家ですが、そのぶん読み応えはかなりあります。発想が宇宙レベルで、彼の想像力に追いつこうとすると気が遠くなってきます。「バベルの図書館」という短編が特に有名なのですが、この図書館には世界のありとあらゆる本があるというのです。どういう事かというと、文章というのは、全て文字の組み合わせじゃないですか。その組み合わせの全パターンの文章を載せた本が塔のように円柱形をした図書館の書棚にダダダーっと並んでいる、という事なのです。意味わかります?(笑)全ての本があるわけだから、この「バベルの図書館」という本もすでにその図書館にある、ということです。

ここまで書いてきて、私の好みが非常に偏っていることに気づいていただけましたでしょうか?とにかく、不思議でびっくりさせてくれる、価値観や世界観がひっくり返るような作品が大好きなのです。何よりもアイデアが詰まった、想像力豊かな作品群を愛しています。

どうしてこういう作品たちが死ぬほど好きなのかは自分ではよくわかりませんが、自分の中のどこかに「世界の姿は、今見えているような形だけではないはず」という不屈の信念があるからかもしれません。